「語学を上達させるには、ぜったい留学しないと!」とか、「生活していれば語学力は自然につくだろうから、向こうで本格的に」という人がたまにいますが、ほんとうにそう?
この記事では、わたし自身の経験をふまえて、「理想の語学力の伸ばし方」を紹介してみますね。
ただ現地に行けば話せるは幻想? どうすればペラペラになれる?
相談を受けていると、冒頭のような「行けば話せる」式の考え方(幻想)をよく聞きます。
じつはわたし自身も、まだ留学なんて考えるはるか以前には、漠然とそう思っていた時期があります。「留学=外国語話す=いつのまにかペラペラ」みたいな。
しかし残念ながら、ただ行っただけでペラペラになるほど、フランス語(語学全般)は甘くありません!
……当たり前ですね。
もちろん、ペラペラになることだけが留学の目的ではありません。
とはいえ、現地で生活する以上フランス語「なし」で済ませるのは難しいです。「言葉が話せない」と思うだけで、不必要な劣等感を感じたり、かなりのストレスになったりするからです。
反対に、多少つたなくてもフランス語がある程度できれば、フランス人は喜んで話をしてくれます。また、コミュニケーション次第でいろいろな情報やサービスを得ることができるでしょう。
これはわたし自身の経験でもあるので、アドバイスでよく言っているのですが、これから留学する人には「フランス語の勉強は、できる限り日本で進めておいた方がいい」とおすすめしています。
でも、じゃあ実際には何をどうすれば効率よく話せるようになるの? という疑問がわきますね。
以下では、いくつかの「おすすめの方法」を書いてみたいと思います。
日本・フランスそれぞれのメリットを活かそう
日本では表現の暗記と文法重視で
まず、この記事↓にも書きましたが、日本とフランスでは、フランス語教育の方向性が少し違います。
JUKUCHO語学の勉強といえば、学校で文法のテキストを教えてもらう… でもそれは日本の「ふつう」です。もっと実践重視の教え方もあるので、バランスよく勉強できるといいですね日仏で違う教え方? 文法とコ[…]
簡単にまとめれば、日本は座学・文法重視、フランスは実践・コミュニケーション重視といったところでしょうか。
このように違いがある以上、フランスでフランス語の基本単語や動詞の活用、基本文法を覚えようとするのは、あまり得策とは言えませんね。というのも、それは留学前にできる作業だからです。
とにかく早めに留学するか、フランス語の勉強がある程度のところまで進んだ時点で留学するかの悩ましいポイントはここにあります。
早く行けば、生活にはそれだけ早く慣れることができるかも知れませんが、どうしても生活で必要なフランス語優先になってしまうので、文法が疎かになりがち、結果的にフランス語力がある程度のところまででストップしてしまいがちです。わたし自身も、わりとそういう人を見てきました。
ですから、もし時期を選ぶことができる状況であれば、日本にいるうちにできるだけ単語や表現を暗記して、文法も一通り終えてしまうのがおすすめです。
実践が少ないぶん話したり・聞いたりは少々つたなくても、DELF B1 くらい(仏検2級くらい)まで持っていった状態でフランスへ行けば、基本的な学習に時間を取られることなく、コミュニケーションに集中できます。
フランスではコミュニケーション重視で
「現地に行くだけでペラペラ」にはならず、できるだけ日本で準備してからフランスへ行った方がよい! ということはお分かり頂けたと思います。
日本で語彙と文法の基礎ができていれば、フランスで比較的スムーズに実践的な会話に入ることができ、語学力が一気に伸びることでしょう。
ではフランスでは、いったい何をすれば「ペラペラ」に近づけるのでしょうか。
ひと言でいえば「コミュニケーション」です。家族や友人にフランス語話者でもいない限り、フランス留学を志した時点では、話す機会があまりない人が多いでしょう。
じつはわたしも、留学前にはコミュニケーションの不足にしばらく悩んでいた時期がありました。
大学で文法や語法を勉強してはいるけど、まわりにフランス人もいないし、なんとなく「絵に描いた餅」状態だったのです。使う機会のない言葉を学び続ける、というのはなかなかモチベーションの維持が難しいですよね。
フランスではそれを補うべく、とにかく「話す」「聞く」ことに集中しました。
いま思えば、留学前に「絵に描いた餅」状態で覚えていたフランス語は、現地で言葉を使う機会を得るための、長い助走だったのです。じっさい、日本で十分勉強していなければ、フランスに着いてもいきなり話すことはできなかったでしょう。
あくまでも私見ですが、フランスの窓口やレストラン等で嫌な思いをした、という話を聞くのは、だいたいフランス語のできない人から、という印象があります。
少し想像してみてください。フランスは人種的に多様で、外見だけからある人がフランスで生まれ育ったかどうかを判断することは困難です。
アジア人っぽい顔をしていても、じつは移住した2世のため生まれも育ちもフランス、ということはザラにあります。
そんな世界で、コミュニケーションを円滑にとるための重要な手段のひとつが、フランス語なのです。
たとえば「自分はフラワーアレンジメント留学だから語学はそんなに必要ない」などと見切りをつけず、フランス語にきちんと取り組んで社会に溶け込むことで、留学自体もいっそう充実するはずです。
コミュニケーションは「パフォーマティブ」に!
この「コミュニケーション」に関してひとつ勉強のアドバイスがあるとすれば、コミュニケーションの修得の仕方や、復習の仕方についてです。
そもそもコミュニケーションは、会話や人との関係を保つためのものですね。
たとえば友達と道ですれ違ったとき « Salut ! Ça va ? »(やあ、元気?)と聞かれたらどうしますか?
「果たしてわたしはいま元気なのか?」とか考え出すのではなく、 ふつうは « Oui, ça va et toi ? »(元気だよ、そっちは?)などと、あまり深く考えず即座に答えるのではないでしょうか。
それはつまり「こう言われたら、こう返す」というパフォーマンスとしての「型」があるということで、じっさい日常生活ではいちいち会話の内容を吟味しているわけではないことも多いのです。
上に書いた「勉強のアドバイス」とは、「こう言われたら、こう返す」というパターンを自分のなかでノートに取ってゆく作業です。
もちろん、« Salut ! Ça va ? » レベルのことはノートに書く必要はありませんが、環境問題の話になればこう返す、フランスの生活一般の話になったらこれを言おう、相手が「今日は楽しかったね」と言ってきたらこれが使える…… などなど、いろいろなレベルでの対話の「型」を、1文でも数行でも、ある程度覚えておけば、いざその場面で簡単に引き出すことができます。
日本で単語や表現を勉強するとき、そういう単語帳の作り方はあまりしないのではないでしょうか。
これは言語のパフォーマティブな側面に力を入れた覚え方、とでも言えるでしょう。
あわせて、その日街中で、あるいは誰かと喋っていて聞いた「応答」についても、どういう場面で、どんな感情表現で、どんな身振りで話していたか(これも込みでパフォーマンスですね)と一緒に書いておくとよいでしょう。
赤ちゃんが親の言葉づかいを少しずつまねていくように、この言葉・表現を使うときはこんなふうに言えばいいんだ、というのをパフォーマティブな次元に注目しながら書いておいてそれを「復習」し、次に似たようなシチュエーションが来たときに、自分でも再現してみましょう。
ここで重要なのは、ノートをつけるとき、内容はさほど厳密に考えなくてもよいということです。ひとまず目的は「円滑なコミュニケーション」をつないで、話す・聞く力をつけてゆくことなので、あまり信条などにこだわらずに、言いまわしと言い方を身につけていけるかが鍵になります。
もちろん、真剣に話す内容を考えて受け答えしないといけない場面も多々あるでしょう。そういうときは、話のテンポの調子よさよりも、少々たどたどしくても表現の内容が重視されます。
でも、出会って数秒で深い話をする人はあまりいないわけで、ふつうは徐々に親しくなってから真剣な話をしますね。
フランス語で、お互いに信頼しあえる関係を築けるようになるまでの「第一歩」として、テンポのよいパフォーマンスとしての会話も必要になるでしょう。
話の「テンポ」と「深さ」のバランスを取りながら実践していけば、少しずつ自然なリズムでフランス語を操れるようになってゆきます。
ランゲージ・エクスチェンジ(タンデム)のすすめ
コミュニケーションの大切さを強調しましたが、話す力・聞く力を鍛えるのにとくに効果的でおすすめしたいのが「ランゲージ・エクスチェンジ」です。
フランス語では2人乗り自転車にたとえて「タンデムtandem」と言うこともありますが、基本的には相手の言語を学びたい人同士が会って、互いに言葉を教え合うという勉強方法です。
初めてフランスに留学したとき、わたしが一番フランス語を伸ばせたのは、間違いなくこのランゲージ・エクスチェンジのおかげです。
自分で勉強したり日仏交流会に出たりもしていましたが、それだけで「話す力」を伸ばすのはさすがに限界がありますね。
かといって、語学学校ではクラスの人数が多いので、自分だけが話せるわけではありません。
そこでランゲージ・エクスチェンジの登場です。
学校の留学生課に問い合わせてみる、あるいは自分の探しているタイプの人がいそうなところに小さな「広告annonce」を出してみる(←けっこう見かけます)などパートナーの見つけ方にはいろいろ方法があり、街によっては(たいてい大学関連の施設として)ランゲージ・エクスチェンジのパートナーを見つけるサポートをする部署があったりします。
フランス人とのプライベートレッスンでもいいですが、ランゲージ・エクスチェンジにすれば、基本的に費用がかからないので経済的です。
進め方のルールは自分たちで自由に決めればよいですが、たとえば週に1回、2時間するとして、毎回1時間は日本語で、もう1時間はフランス語で喋る、書いたものを添削する・してもらう、本を読んでいてわからなかった箇所を質問する・してもらう、自由に話しながら言葉の間違いがあったら正す・してもらう…… などいろいろです。
このとき、自分が学ぶだけでなく、相手の学びも助けてあげるのを意識することが、長く続けるコツですね。
コミュニケーションの力を伸ばすことに関して、この方法が一番よいと思うのは、2人という人数の性質上、自分が話さないと会話が続かないからです。
なにかを喋らなくてはならない状況にあえて身を置くことで、自分の持っているフランス語の知識を総動員して、なにかを伝えようというモチベーションが自然とわきます。
たまにノートを取りながら喋るだけで「勉強している」という感覚もあまりなく、基本的に無料で、それでいて気付くとかなり喋れるようになっているので、素晴らしい勉強方法だと思います。
相手との人間的な相性もありますが、日本語を学ぶモチベーションの高い人と長く続けることができれば、かなり語学力を伸ばせることは間違いありません。うまく続けば、一生の友だちになることだってありますしね。誰かとつながる、という言葉を学ぶことのいちばんの魅力でしょう。
おわりに
日本で、フランスで効率よく勉強して「ペラペラ」に近づくための方法について書いてきましたが、いかがでしたか?
自分自身の経験からしても、これまで見てきた人の例から言っても「行くだけでペラペラ」は、留学をぼんやりイメージしたときの幻想に過ぎません。
日本でもフランスでもモチベーションを保って勉強した賜物が「ペラペラ」なんですね。
ちなみに、これも個人的な感想ですが、語学が堪能な人ほど定期的にその国に行っている印象があります。やはり言語は使ってこそのもので、しばらく喋らないと分かりやすく力が落ちていきます。
フランスでの生活は「ペラペラ」になる(であり続ける)ための必要条件だけど、十分条件ではないということですね。
みなさんもあの手この手を駆使してフランス語を話す機会をつくって、勉強を続けて見てください!