日本では馴染みの薄い作家かも知れませんが、今回はロマン・ガリの半生を描いた作品を紹介してみます!
ロマン・ガリ『夜明けの約束』が原作の映画、『母との約束、250通の手紙』です。
2017年(日本では2020年)に公開され、フランスや海外では評判がよいのに、日本ではあまり話題になっていないのでは。
いったいどんな物語だったのでしょうか…?
映画で学ぶフランス語 ロマン・ガリ『夜明けの約束』と250通の手紙
原作も映画も原題は La Promesse de l’aube です。
先日ツイッター↓で呟いたように、わたし自身も最近観て面白かった作品です。
今回は紹介もかねて、フランス語の勉強になる表現を取り上げてみましょう。
ロマン・ガリが自らの(あるいは母親の)半生を描いた『夜明けの約束』。その映画版が今年頭に公開されています。日本では馴染みの薄い作家かも知れませんが、物語のテンポがよく彼の数奇な人生と、息子を信じる母親の強烈な信念が伝わってきます。『母との約束、250通の手紙』:https://t.co/Am8QJLppWB
— ふら塾どっとこむ (@JUKUCHO_FRAJUKU) October 21, 2020
簡単なあらすじ
ロマンの母親ニーナは、息子の才能をかたくなに信じるシングルマザー。
そのぶん子どもへの期待も大きく、大勢の前で「この子は外交官・作家になる」と宣言します。
息子の方も母の期待に応えて作家になるべく、来る日も来る日も執筆の手を止めません。
ロシア、ポーランド、ニースと移り住み、さらには自由フランス軍に入るロマン。
いっぽう、ニーナは息子を励ますために戦地へ手紙を送り続けます…
ロマン・ガリの半生の物語であると同時に、ロマンを育てあげた母の物語。
1914年、当時のロシア帝国領で生まれた。出生名はロマン・カツェフ。
14歳の時、母と共にフランスニースに移り住み、フランスに帰化。第二次世界大戦後、外交官として活躍。
1956年ロマン・ガリー名義と1975年エミール・アジャール名義で、2度ゴンクール賞を受賞。
フランス語表現を学ぼう!
まずは冒頭の場面から。
まだ幼いロマンが、学校からの帰りに雪の降る道を歩いています。視界がよくない道から、お母さんが突然現れるシーン。
« Je t’ai fait peur ? »
「びっくりした?」「驚いた?」くらいですね。
Je t’ai fait peur ? Je savais que tu passais par là.
びっくりした? ここを通ると思ってね
faire peur (à qn.) で「(人を)怖がらせる」
でも、覚えるときは« Je t’ai fait peur ? »と具体的な文章の形で覚えるのがオススメ。
というのも、次に似たような場面に遭遇したとき、そのままの形で使えるからです。
それに具体的な形で覚えてさえいれば、faire peur (à qn.) という形を抜き出すこともできますね。
« Il y a Aniela qui t’attend ! »
同じ場面からもうひとつ。こちらは中級レベルです。
寒いから急いで家に帰るように子供を促す場面。Anielaはお手伝いさんです。
Rentre vite à la maison, il y a Aniela qui t’attend !
早く家にお帰り。家でアニエラが待ってるよ!
意味は難しくありません。
ただ、どうして周りくどい « il y a Aniela qui t’attend » が使われているのでしょうか?
« Aniela t’attend »でもよさそうじゃないですか?
じつはフランス語は(とくに判断文について)基本的に【既知情報 – 動詞 – 未知情報】という構造をとります。
つまり、相手がまだ知らないもの/話の文脈にまだ出てきていないものが動詞の左側(主語の位置)に来ることは少ないのです。
それまでその犬が話題になっていない限り、
Il y a un chien qui aboie fréquemment.というのが普通で、
△Un chien aboie fréquemment. は不自然です。
不定冠詞がいきなり文頭にくると相手は「何の話?」と一瞬戸惑ってしまいますね。
« Il y a Aniela qui t’attend ! » もこれと同じ構造です。
もちろんロマンは家のお手伝いであるAnielaを「すでに知っている」わけです。
しかし、フランス語の基本構造における【既知情報 – 動詞 – 未知情報】の既知情報とはそういうことではありません。
それまでの会話でAnielaが登場していない限りは、文脈的に「未知情報」。
そのため Il y a を文頭に置いて、動詞の右側に「未知情報」が来るようにした方が自然な表現になります。
« Attention, c’est très fragile. »
ロマンは14歳の時に母親とニースに移り住みますが、こちらは到着シーンから。
その辺にいる人を捕まえて荷物運んでもらう、ということはフランスではよくあります。
« Attention, c’est très fragile. » « N’ayez pas peur. »
「気をつけて、壊れやすいから」「ご心配なく」
カバンを運んでくれる青年に向かって、ロマンの母親が注意を促す場面。
« Attention, c’est fragile. »
荷物を運んでもらうときに使える、自然な表現ですね。
« N’ayez pas peur. » は avoir の命令法と、 avoir peur(を怖がる)という表現の確認になります。
もう少しくだけた表現だと « Pas de souci. » なども可能ですね。
まとめ&動画はこちら
ロマン・ガリ『夜明けの約束』を映画化した『母との約束、250通の手紙』を紹介しながら、フランス語表現をピックアップしてみました。
ちなみに、こちら↓の動画でも、同じ内容(一部変更)を取り上げています。
母の愛もさることながら、彼の人生がとにかく波乱万丈。
物語のテンポもよく、ロマンの半生と母親との関係がよくわかります。
軍人や外交官と並んで、母親が作家になることを勧めるあたりも、「文学」「書くこと」が神話的な力をもっていた頃の時代背景をよく表していると思います。
じっさい「死んでから評価されても仕方ない」と絵画の道を否定した母親が、文学の道なら認めるというのも象徴的です。
あらためて親子の関係は家庭それぞれですね。
いずれにしても、個人的にはおもしろい映画だったので、興味があればぜひ観てみてください。
『母との約束、250通の手紙』はこちらから視聴できます。